吃音かもと思った時の道標 吃音の正しい情報を得るガイド
吃音かもと思った時の道標 吃音の正しい情報を得るガイド
こちらの記事でお話ししたような、吃音のある人に特徴的な話し方(連発・伸発・難発)が自分もしくは家族や近しい人に見られると、「もしかしたら吃音なのかも?」と思うかもしれません。しかし、吃音の支援はまだ需要に対して供給が追いついていない状況で、吃音の症状や対応に関する情報もそれほど多くありません。
今回は、「吃音かも?」と思った時にまず皆さんが行うであろう、情報収集の仕方についてお話しします。情報収集には信頼性の高い情報を得ることが大切になりますが、吃音においてはより重要になってくると私は考えています。本記事ではその理由を掘り下げ、その後に吃音の正しい情報を得られる、おすすめの情報源を5つご紹介します。
どんな時でも、最優先事項は「信頼性の高い情報を見つける」こと
吃音に関する情報は玉石混交です。つまり、学術的研究を参照した信頼できる情報がある一方で、個人の経験を「これこそが真理」かのように語る情報も存在します。これは過去の誤った言説が未だにアップデートされていないケースがあること、そして吃音に関してまだわかっていないことが多く存在していることが背景にあると考えられます。
この現状において吃音の情報収集で何よりも優先するべきことは、「信頼性の高い情報を得ること」です。
人はどのように「この情報は信頼性が高い」と判断するものなのでしょうか? Scbweiger (2000)は、情報の信頼性の判断は個々の能力や経験によって異なるとしています。しかしながら、タイプ分類するとすると6つの階層で説明することができるして、その中でも人が最も信頼する情報かどうかの判断軸として最も重視するのは「情報を発信している人」、その次に「情報源がどこ(=どんな人によるもの)なのか」だと述べています。
この2つは似通っているように見えますが、一つ目は発信者への信頼感、二つ目は信頼感の根拠、と捉えることができると思います。例えば「情報を発信している人」に関しては、その相手に対する印象が大きく作用すると考えられます。私たちの普段の生活で考えても、好きな人の話に真偽を疑うことはないけれど、苦手な人の話はつい訝しがって聞いてしまいますよね。そして二つ目の「情報源はどこ(=どんな人によるもの)なのか」は、発信している人の社会的地位(企業経営者、大学教授、有名政治家など)が影響すると考えられます。
話が少し逸れてしまいましたが、吃音に関する情報では、人が情報源の信頼性を真っ先に判断する材料としての「発信者」が少ないというのが課題となります。発信者が少ないということは、例えばSNS上でとある発信者が頻繁に投稿しているとすると、情報を探している人はその発信者の発信に辿り着く可能性が高くなります。
しかし、その発信者が吃音に関して根拠に基づく話題を提供しているかどうかは、専門家ではない人たちには判断が難しい場合があります。そこで人が何を判断の拠り所にするかというと、上記に述べた「印象」です。優しそうな雰囲気か、頻繁に発信しているのか(熱心さ)、もしくは情報を探している人にとって心地よい話題を提供しているか、などが「この人は良い人だ」という印象を作り、それが発信者の信頼性へと繋がってしまいます。
吃音に関する発信している人の多くは「吃音に困っている人を支援したい」と気持ちを持って真摯に活動しています。しかし、中には根拠に乏しい情報も紛れていることがあります。吃音に関する根拠に乏しい情報は、困っている状況を改善しなかったり、困り事に関する悩みをより深めてしまう可能性があります。
話が長くなってしまいましたが、ここまでが「吃音かもしれない」と思ったら、まず最初に取る行動として、信頼性の高い情報を得ることが望ましいと考える理由です。
吃音の正しい情報を得るリソースに触れよう
では、吃音に関する信頼性の高い情報はどうやって得たら良いのでしょうか。
人間の心身に関する正しい情報を得る場合、判断軸として最も重要となるのが「科学的根拠に基づいているか」です。菊池(2021)によると、吃音に関する科学的根拠とは、吃音の相談や支援を行う人たちの中で生まれた問いを研究実験で測定し、その結果が妥当であるかを確認することです。例えば、吃音の研究の中には「これをやってみると良いのでは?」と感じた支援方法を、実際に実験で数値化し、その数値は意味を持つものなのか、他の人が計測しても再現されると言えるのかを調べるというものがあります。つまり、確実性の高い考え方となるかを研究で検証するのです。科学的根拠の土台となっているのは、そうした確実性の高い学説であり、多くの人にとって役立つものといえます。
その次に情報の信頼性を高める要素は、吃音に関する謎や支援方法を追求する人たちが集まる集団、すなわち研究機関による発信です。研究機関では複数の研究者によって議論・査定された情報を発信していることが多いため、客観性や正確さが高い情報であるといえます。
吃音に関して日本語で得られる最も信頼できる情報原は、吃音の学術的研究を長く行ってきている機関だと考えます。その代表として、「日本吃音・流暢性障害学会」と「国立障害者リハビリテーション研究所 聴覚言語機能障害研究室」が挙げられます。これらの機関は日本国内における吃音研究の代表格であり、海外の吃音情報も積極的に取り入れ、学術的根拠に基づく情報を発信し続けています。それぞれの機関では、一般の方へ向けて吃音の基礎的な情報を発信していますので、ぜひご参照ください。
近年では、吃音の研究者や臨床実践者の発信も増えています。国内外での研究活動、書籍執筆やメディア出演、そして吃音のある人の診察を行っている菊池良和医師のYouTubeチャンネルでは、毎月1回ライブ配信を行っていて、視聴者との相互交流や意見交換にも注力しています。
また、吃音に関する情報発信や講演活動を行っていて、2024年に「吃音・ことばの相談室くろさわ」を開業した言語聴覚士の黒澤大樹さんのインスタグラム投稿もおすすめです。黒澤さんのインスタグラム投稿は、主に吃音のある子どもの保護者に向けて、吃音の症状や対応をわかりやすく伝えています。また、黒澤さんが関わっている「ふくしま吃音懇話会」が作成したリーフレットは、学校の先生や周囲の人へ向けて吃音を説明することを想定した資料で、無料でダウンロードできます。
現代はインターネットの発達やデジタルデバイスの普及により、どんな情報もすぐに、そして大量に手に入れられます。そのため、自分がどんな情報を求めているのか、その目的は何かを常に考え、できるだけ正しい情報を集めることはあらゆる分野や場面において大切です。
最初にも述べましたが、吃音に関する情報は玉石混交です。本記事では、できるだけ正確さや精度の高い情報を得るために、情報を選ぶ時にどのような判断軸を持つと良いのかをご説明し、信頼性の高い研究機関や発信者による情報源をご紹介しました。「吃音のことを知りたい」と思う方の情報収集の一助となれば幸いです。
参考資料
1)Scbweiger, W.:Media Credibility-Experience or Image? A Survey on the Credibility of the World Wide Web in Germany in Comparison to Other Media. European Journal of Communication, 2000,15(1):37-59
2)菊池良和, 福井恵子, 長谷川愛: 保護者からの質問に自信を持って答える!吃音Q&A. 2021, 日本医事新報社.
3)日本吃音・流暢性障害学会: 吃音について. https://www.jssfd.org/kaisetsu.html 2024年7月30日閲覧
4)国立障害者リハビリテーション研究所 聴覚言語機能障害研究室: 吃音について. http://www.rehab.go.jp/ri/departj/kankaku/466/2-1/ 2024年7月30日閲覧
5)菊池良和(YouTubeチャンネル): https://www.youtube.com/channel/UCRkcwqVmxo3We86FQSE3uJg 2024年7月30日閲覧
6)黒澤大樹(インスタグラム): https://www.instagram.com/kurosawa_kitsuon/ 2024年7月30日閲覧
7)ふくしま吃音懇話会: リーフレット. https://www.fukushima-kitsuon.com/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88 2024年7月30日閲覧
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