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言葉だけではわからない吃音の難しさ

吃音と聞くと、多くの人は「言葉を繰り返す」「言葉が詰まる」「話したい時に話しにくくなる」といった症状を思い浮かべる人が多いと思います。

吃音は話す時の症状ではあるものの、その影響はその人の生活全体に影響することが多く、「吃音」と一括りにすると誤解に繋がる可能性があります。吃音を多面的に捉えることによって、吃音と共に生きる人々それぞれの問題が見えてきます。

昨今は吃音の研究が進み、これまで「わからない」とされてきたことが少しずつ解明されてきています。しかし、それでもまだ一般には知られていないことが多く、憶測に近い情報が飛び交っています。

今日は吃音の理解を一歩前に進めるために、話し方の特徴という一側面だけではなく、吃音による様々な影響を一緒に考えていきましょう。


吃音の定義
吃音は、発声や発音に関する身体の解剖学的あるいは機能的な問題がないのに、滑らかに話すことが難しい状態です。本人には言いたい言葉がはっきりと思い浮かんでいるのに、話す時に「ことばの一部を繰り返す」(連発)、「ことばの一部の音を引き延ばす」(伸発)、「ことばの音がつっかえて出てこなくなる」(難発)と言った吃音中核症状と言われる三つの症状が現れます。この吃音中核症状については後述しますが、こう言った「ことばの出しにくさ」を解消する工夫として顔をしかめたり、体を動かすといった行動が現れることがあります。また、言いやすい言葉に言い換えたり、話すこと自体を避けるようになる場合もあります。


吃音の分類
吃音は以下のように分類されています。

  • 発達性吃音:2〜5歳の幼児期に吃音と見られる症状が発現する吃音
  • 獲得性吃音:発達の過程ではなく、後天的に(多くは成人になってから)発現する吃音。神経原性吃音と心因性吃音が含まれる。
  • 神経原性吃音:脳卒中や脳外傷など、脳に損傷を負った影響で後天的に生じる吃音
  • 心因性吃音:長期間にわたるストレスや心理的トラウマを経験した後に生じる吃音

上記の通り、吃音は出現するタイミングによって大きく2つに分けられます。「吃音」と一般的に表現されている症状の多くは、上記の分類でいうところの発達性吃音に該当します。発達性吃音では、2語文以上の長さの文で話すようになってから吃音が発症する場合(3歳ころ)が多いようです。

幼児期に吃音を発症した人の中には、特に何も手立てをしなくても、成長に伴って吃音が出なくなる人もいます。幼児期に吃音を経験する人は20〜50人に1人(人口全体の約5%)、そのまま吃音が幼児期以降も持続する人は、約100人に1人(人口全体の約1%)だと言われています。

どのような因子によって吃音が幼児期以降も持続するのか、もしくは3〜5年以内に自然消失するかは、現段階では明確にわかっていません。しかし、親族の中に吃音の人がいると吃音が持続する可能性があると考えられています。また吃音がある人の男女比は、3〜5:1で男性が多いと言われており、女性よりも男性の方が吃音が持続する可能性が指摘されています。

吃音の症状はことばだけじゃない
吃音には以下の3つの発話特徴(中核症状)があります。

連発:言葉の音をくり返して発する状態のことを言います。例えば、「お、お、お、おはよう」「た、た、た、たいこ」など、多くの場合は単語の最初の音をくり返すことが多いです。

伸発:言葉の音を引き伸ばして発する状態のことを言います。「あーりがとう」「くーるま」など、本来は伸ばす音が入らない箇所で言葉の音を引き伸ばします。

難発:言葉を話そうとしているのに、言葉がつまってなかなか話し始められない状態のことを言います。「…こんにちは」「どうぶつ……えん」など、単語の最初だけでなく、単語の途中でも難発が起きることがあります。

吃音には「ニ次症状」という、話す時に伴う体の動きや行動があります。言葉がつまって出てこない状態に伴って顔をしかめたり体がこわばることがあったり、言葉がつまっているのを解消しようと話す時に「はずみ」をつけるように体を一部を動かす(例:腕を振り下ろす、足踏みをする)ことがあります。

吃音の二次症状は、もう一つ、「回避行動」と呼ばれるものがあります。回避行動とは、吃音が出やすいと本人が自覚している言葉、もしくは話すこと自体を避けることです。吃音による話しにくさや、吃音のある話し方に対して他者から否定的な反応を受けるといった経験を重ねることが回避行動に繋がります。

吃音の心理的葛藤
吃音をよく知らない他者が吃音のことばの症状と直面する時、その症状に対してネガティブな反応を示すことがあります。もしくは特に意図を持たずに、いわばその人の「知りたい」という気持ちを満たすために「どうしてそういう話し方をするの?」と質問してしまうことがあります。

吃音に対する他者の反応は、吃音のある人には心理的に影響を及ぼします。吃音のある人に吃音の症状が起きる時は、「話したい言葉を話そうとする時に不意に滑らかに声やことばの音を出せないことがある」という状態です。本人が意図していない、コントロールできないタイミングで吃音が起きます。そのことは、吃音を知らない人には理解されないことがあります。

小学生以降は同級生など周囲の人間から、吃音の話し方に対する指摘やからかいを受けることがあります。自分が意図していない・抑制することができない話し方に対し心無い言動を受けることで、「話す」ことに対しネガティブな経験を負い、「話す」ことへの葛藤を感じるようになります。

また、授業や学校行事など人前で話す時に吃音の症状が出てしまう場合、吃音の話し方を一度に大勢に観られてしまう恥ずかしさや、滑らかな話し方ではないことを「失敗」と捉えてしまうなどにより、人前で話すことに否定的な印象を抱くことがあります。

人によって受けとめ方の度合いは異なりますが、こういったネガティブな経験や葛藤を繰り返すことにより、「話すと吃音が出てしまう」という心配が次第に大きくなっていきます。そうするうちに、「話すことを避けたい」という気持ちが吃音のある人には強くなり、進路や職業の選択、あるいは学校や社会人生活、日常生活に影響することがあります。

安心してコミュニケーションを楽しむ生活を作る
人の生活に、他者とのコミュニケーションは欠かせません。人間のコミュニケーションは様々な形がありますが、その大部分は声を使ったコミュニケーションです。「他者とのコミュニケーションの中で吃音がいつ起きるかわからない」ことが吃音の難しさであると私は考えています。

不安の軽減は簡単なことではなく、短期的に結果が出るものでもありません。吃音への不安と言ってもその要素は1つではなく、生活を続けている以上はその時々で新たな要素が重なったり大きくなる可能性もあります。しかし、「吃音と向き合う」ことを時間をかけて行っていくことにより、今ある問題が少しずつ和らいでいく可能性があります。そして、1人で問題を抱えこむことがないよう、支援の手を繋いでいくことにより、今ある課題を今以上に大きくしたり複雑にしたりしないよう手立てを立てることができます。

コエノバでは、吃音の方のご相談を受けるにあたり、今何が課題となっているのか、これまではどんな経験をしてきたのか、これからどうありたいのかを、言語的な評価とご相談者様との対話を通して一緒に見極めます。そして、それぞれのペースや希望に合わせて、言語トレーニングを行うだけでなく、吃音との向き合い方を一緒に考えていきます。吃音の方々が安心して自分らしくコミュニケーションを楽しむ生活を送るために、言語聴覚士として支援したい。それがコエノバの願いです。


参考文献
1) 森浩一:吃音(どもり)の評価と対応. 日本耳鼻咽喉科学会会報;2020, 123 (9), 1153-1160.
2) 小林宏明、川合宗一:特別支援教育に置ける吃音・流暢性障害のある子どもの理解と支援. 学苑社; 2013.
3) 近藤雄生:吃音:伝えられないもどかしさ. 新潮社; 2019.

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